小池　恵理香

　

帰国して、１ヶ月以上が過ぎたが、いまだに彼らのことを思い出さない日はない。それだけあの２ヶ月の経験が、私の中で大きなものであるのであろう。

はじめにMexiquitoに着いて感じたのは「施設の子供たち」という私の考えをぶちやぶるほどみんなが元気いっぱいで、明るく、人懐っこかったということである。みんなに受け入れてもらえるか心配だった私のところに、子供たちはすぐに駆け寄ってきて、まるで初日なんて考えられないぐらい私たちは仲良くなれた。しかしMexiquitoは男の子だけの施設ということもあって、殴りあいのけんかは日常茶飯事、叱ることになれていなかった私は、最初はすごく戸惑っていた。しかし叱ることに抵抗がなくなっても、言うことをなかなか聞いてもらえず、一体どうやったら言うことを聞いてもらえるのだろうと頭を悩ます日々が続いた。

とりわけ私にとって難しかったことは、大きい子たち(10〜13歳)との付き合い方である。彼らと仲良くなるには、小さい子たちとは違いもっと言葉を必要とした。また、１ヶ月を過ぎた頃から、一部の大きい子たちのいたずらがだんだん性的なものになっていったのである。初めはかわいいものであったが、それは毎日続き、だんだんエスカレートしていった。何度注意しても耳を貸さず、反抗期で、短気な彼らには悩まされた。帰る直前にも彼らと衝突し、「早く帰れ」と言われたことがあった。もう去る直前だったこともあって、今まで私は何をやってきたのだろうと本当に悲しくなったし、スペイン語が上手に話せず、きちんと彼らと話ができないことを本当に悔やんだ。

しかし、そんな子供たちの行動のほとんどは、私たちの注意を惹こうとしてやっていることなのである。Mexiquitoの子供たちは、親の暴力から保護された子や、親のアルコール中毒が原因で障害を持っている子、親が刑務所にいる子など、私たちの想像を超えたような現実を抱えている子たちであった。そんな子供たちは、感情の起伏が激しく、とてもデリケートだった。しかしそれと同時に、とてもcarinoso(愛情深い)であることも確かであった。私は、そんな彼らのまっすぐな感情が大好きだった。Graciasなんてよく言う子たちじゃなかったからこそ、彼らの優しさは本物だった。つらいときには、結局子供たちが私を励ましてくれる存在だったのである。

そんな彼らに私ができることと言ったら、私が彼らの「友達であり、ママであり、お姉ちゃん」になって、愛情をたくさん注いであげることだった。遊ぶときは、子供目線になって、子供のしていることはなんでもした。庭に生えている実を食べたり、虫を取りに行ったり、一緒にいたずらしたり。寝るときには、おやすみのキスをして、悪いことをしたらしかって、勉強をみてあげて、さみしいときには一緒にいてあげて…。しかし逆に、人を「純粋に愛する」ということを私は彼らに教えてもらったような気がする。１人１人を知れば知るほど、私は彼らに言葉を超えた愛情を持つようになっていった。毎日毎日私のところに駆け寄ってくる子供たちが、かわいくてしょうがなかった。最後の夜のお別れ会の日、いつもは絶対にそんなことを言わない大きい子たちも含めて、みんなが口々に「行かないで」「大好きだよ」「ありがとう」と言ってくれた。涙を流してくれた子もいた。そのとき、私はやっと私がここにいた意味を見出すことができたのである。

この活動に参加しなかったら、絶対に知り合うことのなかったメキシコの子供たちが、こんなにも私の中で大切な存在になった。１ヶ月以上経った今でも、時計をみては彼らのことを想う。そんなすばらしい機会をくれたsveに、また今回の派遣に関わってくださった全ての人、一緒にMexiquitoでの生活を共にしてくれた２人に、私は感謝の気持ちでいっぱいである。

この活動に参加したことで、自分の人生を省みるようになった。多くのメキシコ人に出会い、（子供たちを含めた）彼らが、自分の人生を受け止め力強く生きている姿は、私に衝撃を与えた。いかに自分が小さな人間であるかを感じさせられたのである。そしてまた、「挑戦してみること」の大切さにも気づいた。というのも、親の反対があって一時は参加をやめようとしていたときがあったからである。しかし、そんなことにもめげずに、ただ「行く」と決心したことが、こんなにもすばらしい経験につながったのである。まずは挑戦してみること、それが自分の人生を変える大きなきっかけになるかもしれないのである。

 

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