勝呂 真帆
私は、二年次の夏休み全てをメキシコでのボランティア活動に奉げよう、とこの活動を知った時からずっと思っていた。そもそも、私がイスパニア語学科を受験しようと思ったのには、世界の貧困問題に興味があり、そこで自分がボランティア活動や何らかの支援をするなら、言語圏の広い言語を話せたほうが、多くの人と関われると思い、ラテンアメリカという広大な地域で、それぞれの国が独自の文化を持ち、未だ多くの社会問題を抱えている国々で話されているスペイン語を学びたい、といった理由があった。
私がかけがえのない２ヶ月を過ごした施設は、１歳から１４歳の子ども達と障害者を合わせて２７人が暮らす、男の子だけの施設、Mexiquitoだった。メキシコへ発つ前にメキシコのストリートチルドレンについての本を読んだりし、私がMexiquitoで会う子ども達も、皆こんなふうに辛いバックグラウンドを持っているのだろう、ドラッグやアルコール中毒の問題を抱えている子どもに、私はどう接すればいいだろう、施設はひどく不衛生で、子ども達はまともな生活ができていないのだろう、などと想像をめぐらせていた。
実際訪れてみれば、彼らは、私たち日本人ボランティアがうまくスペイン語を話せないにも関わらず、「日本からメキシコまで何時間かかったの？」「飛行機？？？本当に？？？じゃあ、歩いたらどれくらいかかっちゃうの？」と質問してきたり、「遊ぼう」とせがんで来たり、「宿題手伝って」と頼りにしてくれたり、私たちを受け入れてくれた。また、Mexiquitoは育ち盛りの男の子が遊ぶには十分に広く、物資にも恵まれ、私の想像をはるかに上回るほど、衛生的にもある程度は保たれていた。
毎日が体力勝負ではあった。朝、子ども達を起床させることから始まり、夜就寝させるまで、毎日本当にクタクタだった。それでも、子ども達が学校から帰ってきて、飛びついたり、抱きついたりするのを見て、「疲れるけれど、私はこれをしに来たんだ。子ども達やMadreが望むことをしてあげることが、私が自分の全てをこの夏休みのメキシコでの生活に奉げるということなんだ」と考えた。そして、その中には、子ども達が悪さをしたら、それがなぜ悪いことなのかを気づかせることも含まれていると考え、つたないけれど、私にできる範囲で注意しつづけた。それも愛情だと思った。
しかしながら、うまく言葉が伝わらないのと、子ども達があまりボランティアに対してリスペクトしてくれなかったのもあり、なかなか理解してくれなかった。お皿洗いの当番をさぼろうとする子どもを何度探し回り、つかまえようとし、一人を連れて戻って来たと思えば、もう一人には逃げられる、とうことを何度繰り返したかわからない。また、あまりにひどいいたずらに、Madreに注意をお願いしたことがあった。それが結果的に、「言いつけた」と子ども達にとられてしまい、とても険悪な雰囲気になってしまった。つい昨日まで一緒に冗談を言っていたはずなのに、何度話しかけても無視されてしまう。あと２日で施設を去る、という時だった。それまで築いてきた関係が崩れてしまったのでは、という思いと、どうしてそのいたずらが悪いのかに気づいて欲しかったのかということを、まるで理解してくれなかったのでは、という思いで、悲しさでいっぱいだった。結局、一人の男の子とは、その件で、仲直りできぬまま、さよならも、抱き合うこともないまま別れてしまった。いい別れができなかったことはすごく残念だったし、もしかしたら、そのせいで彼にも後悔させてしまったかと思うと、辛い。けれど、あの時の注意がなければ、彼はそれを当たり前としてしまうかもしれない。どんなバックグラウンドを抱えていても、彼らは、これから世界を背負っていく一人の人間である。だから私は、彼らには、何が善くて、何が悪いのかを知って欲しかった。結果的にあのような形になってしまったけれど、注意したことを後悔してはいないし、もう少し大きくなったら、きっと私が言いたかった意味を理解してくれるだろう。なぜなら、それだけの関係を築いてきたと信じているから。
子ども達が食事中に話しているとき、遊んでいるときの笑顔や、宿題とにらめっこしているときの真剣な顔を見るのが大好きだった。しかし、そんな彼らの表情を見ながら、ふと、一人ひとりのバックグラウンドを思い出すと、涙が出てきそうだった。生まれながらの運命だとしても、こんなに幼くして、こんな過去を持つなんて、という子どもも何人かいた。けれど、彼らはその辛い過去以上に逞しく、優しかった。
子ども達は幼い頃から、施設を変わったり、毎年ボランティアが入れ替わることもあり、人との別れには慣れている。私たちとの別れも惜しんでいたが、私たちが去って１ヶ月が過ぎた今、私たちのことをどれだけ頻繁に思い出すだろう。私も帰国当初は彼らにすぐにでも会いに行きたいと思ったし、寂しくて仕方なかった。しかし、日々の忙しさの中で、彼らのことを考える時間も減りつつある。けれど、これは「忘れる」ということではない。互いに忙しい毎日を過ごしながらも、一緒に過ごしたかけがえのない２ヶ月は絶対に消えることはない。たくさんのcarinoをくれた彼らに”Gracias”の言葉を、そして彼らの幸せを願ってやまない。
最後に、一緒に悩み、励まし合い、素晴しい時を共有した０６年度メンバー、お力を貸してくださった方々、理解してくれた家族、ありがとうございました。