加藤　光世

　メキシコでの2ヶ月間、子供たちからたくさんのことを学び、毎日子供たちの笑顔から元気をもらっていた。

　施設に派遣される日、子供たちに会える楽しみと、私にとって初の海外経験で言葉のあまり通じぬ場所で生活する不安でいっぱいだった。施設に着いたとき、まだ夏休み中で残っている子供は6人ぐらいしかいなかったがみな人懐っこく、私たちに施設を案内してくれ、すぐ仲良くなり走り回ったり折り紙をしたりして遊んだ｡夏休みが終わるにつれ自分の家などに帰っていた子供たちが次々に施設に戻ってきた。どの子もみな明るく、遊ぶこと、歌って踊ることが大好きだった。そして何よりも子供たちがとてもしっかりしていることに驚かされた。年上の子は小さい子の面倒をよく見て、泣いている子をあやしたり、時には悪いことをした子を厳しく怒ったりと、私よりもずっと年下なのにまるで母親のようだった。又、子供たちにはそれぞれ仕事が割り振られており、掃除や洗い物などをするのがとても上手だった。そのため私にはあまり仕事がなく、始めは何をしていいのかわからず、何のためにここにきたのだろうと悩み、仕事を探すのでいっぱいいっぱいになっていた。そんな自分に情けなくもなった。しかしその時、日本での合宿で『人のために考えないこと』と教わったのを思い出した。人のために役に立とうと思っていたのは傲慢だった。それからは自分にできることを精一杯しようと努めた。私にできることは子供たちとたくさん遊ぶこと、掃除や皿洗いを手伝える時は一緒に歌などを歌って楽しく過ごすことぐらいだったが、いつも子供たちと一緒にたくさん笑っていた。時に私が掃除の仕方を教えられることもあった。

　しかし、楽しく過ごし、子供たちをかわいいと言っているだけでもいられなかった。新学期が始まった頃、小さい子が全く言うことを聞いてくれなかった。注意すると面白がって余計ふざけたり、嫌な言葉を言ったり、「嫌い」と言われたこともあり、とても辛くなったことがあった。私があまり怒らないのがいけないのだと、怒ることに必死になり、注意したくても言葉が出てこない無力さに落ち込んだ。しかし、遊んでいる時に私が他の子に目を向けていると、私をつねってくる子のその態度を見て、もしかしたらかまってほしいのかな､と感じた。その子だけではない。私達ボランティアを独占したがったり、「見て、見て」と執拗なまでに言ってきたりする子供たちに戸惑うこともあったが、それは注目がほしいからなのだと思った。いつも明るい子供たちであまり普段は気付かないが、たまに親が会いに来て帰った後の淋しそうな顔を見るとやはり寂しいのかな、と思うことが多々あった。確かに言葉が通じればわかることもたくさんある。しかし、なぜこの子がそのような行動をするのか、何を伝えたくてこのようなことをするのかをわかろうとすることが大切なのだとわかった。それに気付くのにかなりの時間がかかったが、言葉がわからないなりに表情を見て何を考えているのかを同じ立場になって考え、叱らなければならないときは叱り、遊ぶ時は思いっきり遊び、言葉が通じず辛い時でも笑顔を忘れずに接し、とにかく大好きな子供たちをたくさん愛した。

　施設を離れる前に子供たちとマドレが小さなパーティのようなものを開いてくれて、子供たちはダンスを踊ってくれた。小さい子も大きい子もみんな私たちのために一生懸命練習してくれたようだ。それを見て本当に嬉しくなり涙が止まらなかった。それを見ていつも手を焼いていた小さい子が「泣かないで」と慰めてくれ、そして「泣き虫〜」と笑われた。そして最後に1人ずつ私たちに「ありがとう」と言ってくれ、抱擁を交わした。みんなのことが愛らしくてたまらなかった。

　何か役に立つためにボランティアがいるのなら、私はボランティア失格だったと思う。私の方がみんなに助けられ、たくさんの事を教えてもらい、子供たちの陽気さに励まされていた。しかし、施設に寄付された玩具が翌日壊れてその辺に落ちているのをよく見ていたので、「物やお金だけの援助では何にもならない」と実感した。私がしてきたことが正しいとは言い切れないが、毎日一緒になってはしゃぎまわり、一緒にたくさん笑って、いつも私の名前を呼んで「遊ぼう」と私のところによってきてくれたのは、私たちといる時間を少しでも楽しんでもらえたからではないかと思う。子供たちが「日本語で○○って何て言うの？」と聞いてきたり「日本の歌と踊りを教えて！」と言ったりと日本のことに興味を持ってくれたのは本当に嬉しかった。いくら疲れていても遊ぼうと言われたらまた一緒になって遊んでしまうのは子供たちが大好きで、子供たちの笑顔を見るのが何よりの幸せだったからだ。

　今、子供たちはとても遠く離れた場所にいる。しかし一緒にいたときと同じように今でもみんなのことが大好きで、これからもずっと大好きだということを伝えたい。

 

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