延澤　大空

　メキシコでボランティアをしていた日々に起こった出来事を書き綴った日記を読み返し、またあの頃に撮った写真を見返しつつ、今私はあの怒涛の日々を思い出している。まだ帰国して2ヶ月も経っていないというのに、日本で過ぎ行く毎日の中であのCasa Hogar Loyolaでの日々が既に私の中で「過去」になりつつある。そのことを本当に寂しく思う。メキシコでの1ヵ月半で起こったこと、感じたことをすべてこの場で述べることはできないが、自分なりにまとめて伝えたいと思う。

　私は他の2人のメンバーと共に、Casa Hogar Loyolaという施設に派遣された。この施設には5つのCasa（家）があり、それぞれ先住民の家族、3歳〜10歳の男の子、4歳〜10歳の女の子、11歳〜16歳の女の子、11歳以上の男の子と分けられて生活していた。私たち日本人ボランティアは、このうち小さい男の子と大小の女の子の、3つのCasaを1週間ごとにまわった。私たちが施設に到着するとますはじめに、Tios（各Casaの子供の世話をしている夫婦）から「今子供は夏休み中でほとんど家族か、Familia Especial（休みの間だけ世話をしてくれるホストファミリーのようなもの）のところにいて、戻るのは2週間後だからそれまでは特に決まった仕事はない」と言われた。施設に到着したその日から働く気満々だった私たちにとってこれは結構ショッキングなことだった。そんな訳で、本格的な仕事が始まるまでは施設に残っている子供と遊んだりご飯の手伝いをしたりと、わりと自由に過ごした。

　本格的に仕事が始まってからは、子供の夏休みが終わるまでとは全く異なる生活を送った。起床して子供のお弁当を作ったり子供の送り迎えしたりすることなどがあったので時間などの理解に間違いがあってはならないので、新しいCasaで1日のスケジュールを聞くときなどはとても緊張した。また、予想していたよりもはるかに自分のスペイン語会話能力が欠如していることを実感させられたのも子供との生活が始まってからのことである。

　ある日、子供の宿題をみる時間に一人の女の子がおしゃべりをやめてくれなかったので注意をした。それでもその子のおしゃべりはヒートアップしていくばかりで、他の子まで便乗して手が付けられなくなってしまい、完全に私が無言になり、泣きそうになってしまった。その時は宿題を既に終わらせていた子がTioに伝えにいってくれたらしく事なきを得たのだが、その前のCasaでも同じく宿題の時間に別の子供から「なによ、あんたは私たちみたいにはスペイン語話せないくせに」と言われていた私は自信を無くし、「自分はここにいて、役に立っているのだろうか」と落ち込んでしまった。だが、その日の夜にそのおしゃべりの主犯格だった女の子から呼び出され「さっきはごめんね。私のこと嫌いにならないで」と言われてその落ち込みも吹き飛んでしまった。Casaにいる子供たちは普段本当に明るく元気で、何か特別な事情を抱えているなんて微塵も感じさせないような子達ばかりなのだが、考えてみれば、ここにいる子達は誰もが1度は『拒絶』されているのだ。その相手はそれぞれにより異なるし、拒絶といってもいろいろなかたちがあるが、だからだろうか、極端に「嫌われること」を恐れている子が多いように感じられた。もちろんその子とは仲直りし、最後の日まで仲良く過ごしたのだが、施設滞在最終日、事情により一足早く帰国することになった私一人の為にRosas Moreno（大きい女の子の施設) のみんながお別れパーティーを開いてくれ、みんなが手紙を渡してくれた。そこでも例の女の子から、またその子と一緒になってうるさくしていた子からの手紙には「初めの方の宿題の時間にうるさくしてごめんね。気を悪くしないで」というような文があり、なんともないように一緒に遊んでいたけれど、ずっと気にしていたのかなと思い、また気にさせてしまって申し訳なかったなと思った。

　今回子供たちと一緒に過ごしたことで本当に多くのことを学んだが、その中でも特に挙げたいことがある。それは、今までの私は本当に色々な人や環境に甘えていたということだ。

各Casaには、毎年新しく入る子がいる。しかし、それ以前に既に出来上がってしまっている輪の中に入るのは大変なことなのだ。今年入った子のうちの一人に親から酷い虐待を受けてきた子がいた。その子ははじめなかなか遊びにも入れてもらえず、私が誘わなければ他の子供たちはしらんふり、という状況だった。しかし、その子は頑張って輪の中に入っていこうと努力していた。私が別のCasaに移りしばらくした後再会したときには、彼女はだいぶ溶け込めていたように見えた。そのとき思った。彼女たちは、この施設が気に入らなかったり、どんなに気の合わない子がいても、別の場所に行くことはできないのだ。6歳の小さな子でさえ順応しようと必死に努力していた。その一連の出来事を見ていて、私は自分が恥ずかしくなった。私は今まで、自分の置かれた環境や状況に文句ばかり言って、如何に順応していくかという努力を怠っていたように思う。彼女の件により、自分自身を再考し、省みる機会をもらった。

最後に、事情により他のメンバーより早くに帰国することになってしまったにもかかわらず丁寧に対応してくださったSJJVの方、顧問のGallego先生、そして今回のボランティアを支えてくださったすべての方に感謝したい。

 

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